比較の応用



アルカの比較は接続詞van,vin,vonを使って表します。順に数学でいう「>、=、<」に相当します。
英語でいうなら順にmore than, as... as, less thanに相当します。

a: I'm taller than she.
b: She's shorter than I.

英語において比較は相対評価を表します。したがってa,bはどちらもI>sheという関係を表しています。
あくまで私が彼女より高いだけであって、彼女の身長が高いのか低いのかは分かりません。140かもしれないし170かもしれません。
英語はこのように比較的純粋な相対をします。

ではa,bの違いは何でしょうか。それは焦点人物の違いです。
英文の場合、thanの統語的な位置により比較対象が離れています。Iからsheまでの距離は遠いです。
もし彼女に焦点が置かれているのにaの文を書いたら、これは英語の論理に反します。
英語は焦点化された事項をできるだけ前に持ってこようという一般的な性質があるからです。
したがって彼女に焦点が置かれている場合はbを取ります。一方――

c: an van la et sor
d: la van an et ser

a,bをアルカに直訳するとc,dになります。
アルカでは英語ほど焦点人物を気にしません。なぜなら比較対象が近接しているからです。

アルカの比較は相対と同時に絶対評価も行います。これが英語との最大の違いです。
cの場合、私が彼女より高いという相対評価を行うと共に、私は一般的に見ても背が高いという絶対評価を含意します。
つまりI'm tallerといいつつI'm tallも含意するということです。

同時に、比較対象である彼女も背が高いことを含意することがあります。
但し、後述のように比較対象における絶対評価は副次的です。必ずしも含意されるわけではなく、そういうニュアンスがある程度です。

尚、dの場合、彼女は私より背が小さいだけでなく、一般的にも小さいことが含意されます。

今度はvonを使ってみます。

e: la von an et sor
f: an von la et ser

cとeは一見同じ意味を表しているように見えます。
彼女が一般的に大きいことを含意しながらも、それでも私と比べると低いという意味です。
ではeとeは何が違うのかというと、これがアルカにおける焦点人物の表れです。
cでは私、eでは彼女に焦点が置かれています。
副次的な含意を受ける対象も彼女から私に代わっています。
このことはdとfの間にも言える関係です。


まとめると、アルカの比較は以下の特徴を持ちます。

1:相対評価を行いながら絶対評価を行う
2:但し、比較対象が受ける絶対評価はあくまで副次的
3:比較対象が近接しているため、焦点人物を強く意識しない
4:van,vonを使い分けることで、焦点人物を明瞭にすることもできる

*2の実例。
『紫苑の書』p126:"an van la et avn sete!"(私のほうがあいつより強いでしょ)
紫苑の台詞です。laとは強盗ネブラのことを指しています。
この発言は紫苑が強いことを含意しますが、ネブラの方は副次的なので強いかどうか分かりません。
ネブラは紫苑に何度も打ち負かされているため、「ネブラが強い」という絶対評価を発話者の紫苑がしているとは考えられません。


尚、同等比較のvinの場合、比較対象は副次的な絶対評価でなく、完全な絶対評価を得ます。
『紫苑の書』p220:"ya, tia an av-e nia fon vao kak lfer lua, son an vin lu et ma avn tot art"
サールの王アルデスがエルトの女王ルフェルの言葉を受けて語るシーン。
訳:ああ、もし私がルフェル殿のようにもっと長い髪をしていれば、ルフェル殿のように魔法が強くなれたろうに。

比較対象のluはルフェルを指します。
王であるルフェルとアルデスは当然魔法が強く、比較対象のルフェルは「強い」という絶対評価を受けています。
このようにvinの場合、比較対象も確実に絶対評価を受けます。副次的ではありません。

また、vinは同等比較なので、焦点人物を切り替えるときは"t vin k"を"k vin t"のように操作します。