語の音が卑語に似た場合
普及型の人工言語の場合、広域に広めなければなりませんから、対象地区の言語が持つ卑語が自言語の語と重なるのは良くないことです
人工言語を作ろうとすると必ず一度はここで悩むはずです
自言語を対象となる自然言語の音韻体系に当てはめたとき、卑語にぶつかるのは問題です
尚、以下は卑語を広義的に捉え、卑猥な語や罵倒語やちょっと言うのが気恥ずかしい語も含めます
たとえば、エスペラントのdankonは日本語の音韻体系に当てはめると卑語になります
かといって他の諸言語では必ずしも卑語になりません
また、エスペラントのindiは「値する」という意味ですが、中国語ではyin1di4(陰核)に音が似ており、
同じくmimi(身振りで示す)はmi1mi(おっぱい)を多少想起させます。アクセント等は勿論異なりますが
ですがmimiはせいぜい日本語では「耳」であって、別に卑語ではありません
ある語が自然言語の卑語と重なるかを一々見ていては、人工言語は作れません
全ての言語で卑語でない音など探しきれないからです
そこで、メジャー言語の卑語だけを調べるという実用案が出ます
しかし、たとえば日本語1つだけ取ったとしても、一体いくつの卑語があるでしょう
最近は卑語を集めた辞典も売っているので確認していただいてもいいですが、日本語1つ取っても卑語がかなりあります
メジャー言語の数をそもそもいくつに設定するかは作成者の納得次第なので数を設定できませんが、
私感を申し上げると、英語を筆頭にし、最低でも10ヶ国語は取らねばならないでしょうか
仮に10だとすると、これはもう莫大な数の卑語があります。3桁4桁では勿論効きません
また、半分の5でも大した数です
しかも卑語の恐ろしいことは、辞書に載りづらいので調べられないということです
ある言語のある語が卑語だとしても、それが辞書に載っていないスラングだとこちらは調べようがありません
たとえ言語を限定しても情報量不足で調べられないのです
加えて恐ろしいのは、卑語の語形が大概短いということです
日本語でもアホ、バカ、カス、クソなどの卑語を例に取ると、やま、かわ、つきと同じように和語的な2モーラが多いです
他に勿論マヌケ、トンマのような3モーラ語もありますが、これも短いです
英語でもfuck,shit,cuntのような4-letter-wordsが数多くあり、これらはどれも語形が短いです
bloddyとかmother-fuckerは多少長いですが、総じて卑語はcrap,damn,brat,bitchのように短い語が多いです
しかし、なぜ卑語は短いのでしょう。そもそも卑語が短くなる傾向を持つということもさることながら、
罵倒するとき人間は冷静でないし、手短に吐き捨てられるほうが言いやすいというのも原因でしょうね
これら卑語の語形を全て避けていたら、自言語は短い語形を悉く失ってしまいます
このように、自言語のどの語がメジャー言語で卑語になるか調べが付かず、
仮に調べが付いても短い語形は使えなくなってしまうというディスアドバンテージの下では、
とてもじゃないが人工言語は作れません
卑語を避けようとすると、人工言語が作れなくなるので、気にしないほうがいいというのが結論です
人工言語も言語の1つです。日本人が英語を学ぶときに I が愛みたいで気恥ずかしいという初学者もいます
でも慣れてしまえば I は I でしかなくなります
英語脳に切り替わっている間は日本語の卑語や恥ずかしい言葉と重なっても、あまり気にならなくなります
あれと同じことが人工言語にもいえます
一方、極端な話をいえば、完全に諸言語の卑語を回避する方法もあります
あらゆる可能性を考慮して語るので、このような極論も紹介します
大抵の卑語は語形が短いというのと、語形が長くなれば確率論的に異言語の卑語と重複しなくなりやすいという性質を活かし、
全ての語を長大にするのです。たとえば「目」をtadermasefteringajampontのようにすれば、いずれの言語の卑語とも重複しません
ただ、全く実用的でないのは火を見るより明らかですね
私が言いたいのは、卑語を完全に避けるのはこれと同じことをしない限り無理だということです
それだけ大変なので、卑語を避けるのは断念すべきだということです
しかしながら、折衷案というのも考えられます。実用レベルで卑語を排他したいなら、これを参考にするといいかもしれません
全ての言語の全ての卑語を調べるのは無理だとしても、メジャー言語を10程度を選び、
その辞典に載っている卑語だけをピックアップするという方法です
たとえば日本語からはバカ、シネ、クソなどを選び、英語からはfuck,shitなどを選びます
1つの言語につき100語抑えれば、10ヶ国語あっても最大1000個語形が欠番するだけで済みます
日常的な卑語など100もあればせいぜいな量ですし、もうちょっと細かく見ても千など行かないでしょう
日常的に千もの卑語を使う人というのは考えづらいです(テニスの国際審判は卑語に詳しいらしいが)
これで滅多に使わない認知度の低い卑語以外は切り捨てることができます
仮に自言語の音素が母音5で子音20程度だとして、音節構造がCVCの場合、音節数はこれだけで2000獲得できます
CVだけでも音節数は100あります。これを組み合わせて「やま」のようにCVCVにすれば10000に増えます
「橋」と「箸」のように自由アクセントで区別すれば、音節数は倍の20000になります
ましてCVCCという音節構造を持つ人工言語の場合、これだけで40000の音節数が得られます
(勿論、実際に使えない音素の組み合わせもありますので、これは単純計算での見積もりです)
CVCCはfuckのような4-letter-wordsと同じ短い語形です
これだけたくさんあるうちの1000が欠番しても実質的な損害はありません
したがって、メジャーな卑語になる語形だけを欠番にするという方法は実用的といえるでしょう
しかし、人工言語によっては声調がなく、しかもCVのような単純な開音節しか持たないものもあるでしょう
そういった言語は音節数が少ないので、1000も欠番すると勿体無いです
そこで、その1000は欠番にせずに、卑語用に使えばどうでしょうか。これだと省エネできます
恐らくこういった手法が普及型にとっては最も実用的でしょう
ただ、これは折衷案なので、完全に卑語を避けているわけではありません
当然、公開すれば重箱の隅をつつかれます
それならいっそ異言語の卑語は気にしないという上記の方針もありえます
色々方法を紹介しましたが、気にしないか折衷案を取るのが一番実用的でしょう
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