n対語の弁別性



制アルカはアプリオリです。単語を覚えるのが大変です。だから覚えるための工夫があります。それを語彙圧縮といいます。

1:序列法

海、湖、池は所詮水溜り。1水、2水、3水のように名づけていけば、覚えるのは水だけで済むという発想です。 しかしプロトタイプを作る時点で滅びました。語形が似て、聞き分けづらいからです。また、語形が同じなので、境界線が曖昧になり、どこからどこまでが2水なんだろうという のが湖以上に分かりにくくなるからです。

序列法の名残は指に残っています。5本あるので、親指から小指までko,ta,vi,va,liと名付けました。 でもぱっと聞いたときどれか分かりにくいので、多分5組数字に取って代わるでしょうね。

2:n対語

これが本題です。n対語については別の記事をご参照ください。

n対語の欠点は語形が似て、聞き分けづらいことです。 そこでn対の弁別性を向上しようと色々な案がでました。

ですがn対そのものは語彙圧縮としてはとても優れています。 覚えやすいし、エスペラントの接頭辞mal-のようにほかのものを付ける必要もないからです。 アルカには2000程度のn対語があり、それを駆使すれば4000程度の語を覚えることができます。 なお、この数は多ければ多いほどよいというものではありません。

n対の利点を残すべく、n対の破棄は却下しました。 n対は間違えやすいといっても、実は間違えやすいものとそうでないものがあります。 その序列は以下のとおりです。

機能語>内容語

したがって、時相詞は一番間違えません。 この序列を掘り下げましょう。

品詞においてもっとも内容語たるプロトタイプは名詞です。したがって逆に動詞は名詞から見て遠くなります。 したがって内容語の中では動詞>名詞の関係になります。 また、形容詞は中間的な存在です。

さらに、同じ動詞でも動作動詞の方が状態動詞よりも名詞からの距離があります。 これらを活かすとこうなります。

時相詞や格詞などの機能語>動作動詞>状態動詞>状態形容詞>性質形容詞>名詞

動詞の方が名詞より上なのは、ほかにも理由があります。 n対で間違えにくいのは高い低いのような反対の概念です。動詞や形容詞は反対の概念でn対になることが多いです。 しかし名詞は違います。男女、兄弟、東西南北のように、グループでn対になることが多いです。

反対の概念は互いに意味が逆だから、違いが明瞭です。だから混同しづらいです。 しかし、グループは互いに似ているのを集めたものだから違いが不明瞭で、混同しやすいです。 このため、n対は動詞の方が名詞より弁別性があります。

さて、名詞といっても色々あります。 男女のように対とも見えるものは高低のように反対の概念として理解することができ、弁別性があがります。 しかし東西のような単なる組み合わせは反対とは見えません。このように、グループ性の強い名詞ほど、弁別性が低いです。

また、時分秒のような概念はグループではありますが、1時間>1分>1秒という定量的な大小があるため、序列がしっかりと見えます。 n対はa,i,o,eの順番でアプラウトが並ぶので、母音が序列を持っています。 時分秒も母音も序列を持つため、時分秒はn対でも弁別性が高いです。

さらに、兄弟姉妹のように、性別と長幼という2つの序列を組み合わせたものもあります。 アプラウトがあらわしているのはあくまで1つの序列に過ぎません。 だから2つの序列を持ったn対とは馬が合わず、弁別性は落ちます。

これを複数の序列を持った名詞とするなら、東西南北や春夏秋冬は円環と考えることができます。 どこが始めかというのが考えられないため、序列がありません。ぐるぐると循環します。 スタート地点が分からないため、時分秒や兄弟姉妹以上に弁別性が落ちます。 そしてこの類が名詞の中で最も弁別性が低いです。言い換えればアルカの中で最も弁別性の低いn対を持ちます。

したがって名詞の内部は以下のような序列を持ちます。

反対の概念と取れる名詞>グループ名詞

グループ名詞をさらに細分化すると以下のようになります。

反対の概念と取れる名詞>序列を持つ名詞>複数の序列を持つ名詞>円環の名詞

では、序列を最初から書き直しましょう。

時相詞や格詞などの機能語>動作動詞>状態動詞>状態形容詞>性質形容詞>反対の概念と取れる名詞>序列を持つ名詞>複数の序列を持つ名詞>円環の名詞

およそ2000あるn対はこの序列のいずれかに属します。 最も間違えやすいのは右です。 この序列が確認できた以上、n対を一絡げに扱うのは誤りだと言えます。弁別性の高いn対まで変える必要はなく、低いものだけを変えればn対の利点を残せます。

この序列を元に、アルカはグループ名詞を境界線とし、その左右で処理を分けました。

据え置き。だが、2重に聞き間違いを防ぐ手法を用意。 金はfant。 ただし聞き間違いを避けるときはアプラウト母音を長く読む。スペルは据え置き。発音だけfaantになる。 さらに間違いを防ぐ場合、接頭辞*l-を付ける。fantはfaantにした上、さらにalを付けてalfaantとする。同様にfentはelfeent。

n対が聞き間違いを起こすときのために代替表現を用意。代替であってもとのn対は継続使用する。 eta,eti,eto,eteの姉妹兄弟は、etta,melme,alser,aruujとなる。

代替表現を持つ基準は、日常語であることです。 また、右は必ず代替表現を持つとは限りません。ただし、「序列を持つ名詞」より「円環の名詞」の方が代替表現を持つ確率が高いです。

以上のように、制アルカはn対という人工言語の特色を保持したまま、その長所を活かしつつ最低限の変化で済ませました。

言語屋は、この反省を活かし、はじめから語彙圧縮を行う際は、このような序列を踏まえてから作成するようお願いします。 語彙圧縮を「聞き間違える」と考えずに切り捨てることは避けてください。単語の種類によって弁別性は変わります。 逆にどうにか聞き取れるだろうと甘く見ず、語の意味ごとに弁別性が変わることも認識するようお願いします。

最後に一言。アプリオリにとって、そしてアポステリオリにとっても、語彙圧縮は人工言語の習得を容易にする有効な方法です。 自然言語にない現象だからといって人間の感性に合わないかどうかは別です。粒読みは合理的な数え方ですが、ゼロの発見を要するので、人類が数を数えだしたころには 粒読みができなかっただけです。当然粒読みをデフォルトの数え方にすることはできるのです。そしてそのような自然言語もあるのです。 粒読みの場合は運良く自然言語に同類がありましたが、ない場合でも恐れずにいてください。 ここで行ったような考察と、自分(達)の身を使った根性実験を経れば、自分の考えの正しさは分かるはずですから。



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