・属格の法則性

語末 添加される接辞
開音節 n xian(紫亞の)
l,r,c en feelen(フェールの)
p,b,n on xionon(紫苑の)
s,z,x,j en iidixen(イーディスの)
t,d,h an yultan(ユルトの)
m,f,v in reimin(おばけの)
k,g un miikun(リンゴの)

w,yは語末に来ないので、無し。
m,f,vは前の母音がo, uなど後ろ寄りだとinでなくenが付く。reim→reimin、zom→zomen
s,z,x,jは指小辞の場合はanで、子音部も音が変わる。


一見法則性がないように見えるが、人間が語感に基づいて自然と分類してきたものに法則性がないわけがない。
よく観察すると次の性質が見られる。

1:有声音と無声音の区別がある子音は同じグループになる

tとd、sとzのように。

2:l,r,cの流音3兄弟は同じグループ

3:子音の調音点に関与

m,f,vは調音点が一番前で、inも母音の中では調音点が一番前だ。
逆にk,gは調音点が後ろで、unも後ろだ。
アルカには母音調和があるが、これはその現われではないか。
ということは、この複雑さはむしろ言いやすさを反映しているのではないか。

s,z,x,jとl,r,cについても同様だ。
これらは一番前ではないものの、前寄りの子音だ。
そこでやはり同じく一番前ではないが前寄りな母音eと結びついているのではないか。

とはいえ、この傾向は絶対ではない。
例えばhは後ろ寄りだが、anは中寄りだ。
また、p,bも調音点が前だが、onは後ろ寄りだ。
しかしこれらもよく観察すると理由が見えてくる。

4:響きを柔らかくしている

後ろ寄りはonとunだが、その子音はp,b,n,k,gだ。
このうちp,b,k,gは閉鎖音で、破裂音だ。

アルカでは伝統的に、とりわけアルカ・エ・ソーンにおいて、閉鎖音を避ける傾向がある。
特にソーンでは閉鎖音の破裂は卑しいと感じられ、特に唾が飛ぶような発音が意図的に避けられてきた。
アルカ話者の主観では、閉鎖音を奥寄りの母音とあわせて使うとくぐもった鈍い響きになり、破裂の勢いが弱まって聞こえる。
それゆえ、奥寄りの母音と組み合わせてonやunとなっているのだろう。これが3の補足となる。

5:掠れる音を嫌う

hにanが付くのは、hanのときが最も子音の掠れが弱くなるからだろう。
アルカの場合、hは音節頭だと[h]の発音をするが、音節頭でもドイツ語のIchやdochのような子音になることがある。

その場合、a,i,o,e,uの中で最も掠れが弱いのがanのときだ。
前寄りのiだとIchのヒのように鋭く掠れて聞こえる。
後ろ寄りのuやoだとdochのホのように聞こえるが、これがうがいや喉鳴らしのように聞こえ、鈍い掠れになる。
中寄りのaでもnachのハのように掠れて聞こえるものの、鈍くもなく鋭くもないので、アルカ話者の耳には少なくとも最も掠れが弱く聞こえるのだろう。

6:3と4を組み合わせるとt,dも理解できる

3に基づけばt,dはs,zと同じenになってもよさそうだが、anになっている。
t,dは閉鎖音なので、4に基づいて後ろ寄りが好まれる。
しかし3に基づけばenになる。そこでenを少し後ろにずらしてanにしているのではないか。

ひとつひとつの法則は「〜ではないか」という弱い推論だが、法則同士を組み合わせて検証できると「恐らくそうではないか」という強い推論になれる。
法則を組み合わせて既存のデータに整合する結果が得られたので、どうもこの推論は使えそうだ。

さらに指小辞においてs,z,x,jがenでなくanとなるのも説明できる。
4によると、anにすることで響きを弱めることができる。
そのため、摩擦音の鋭い印象を避けることができ、結果的にアルカの指小辞のコンセプトに合う。
(日本語は指小辞が「イ段」で、むしろ前寄りなので、理解しづらいかもしれない)