アスペクトをきちんと作りこむのは難しい。

まず古アルカのころは、英語や日本語のアスペクトも把握していなかったので、アスペクトはまともに定まっていなかった。
セレンは日本語の「タ」の感覚で古アルカの-dを使うので、リディアらとの食い違いがあった。

高校くらいからアスペクトが食い違っている現象が深刻だと気付いた記憶がある。
だが、単語や文法と違って、アスペクトが違ったくらいではコミュニケーションに大きな支障がない。

そのため、何語の学習であろうと、アスペクトはそこまで細かくやらない。
また、やっても細かすぎてキリがないというのもある。

だからといって「犬を見ている」のつもりで"I'm seeing a dog"とするのはやはりまずい。
また、学習者はそれでもいいかもしれないが、言語の作者は細かく作りこまねばならない。責任者なのだから。

制アルカになって5相体系を作った。
それでも後期になって行為動詞と状態動詞の対立、単位動詞と累積同士の対立に気付かされた。

新生になってアスペクトが一旦あいまいになったが、夢織春をアシェットが正確に読めなかったことで、アスペクトを整理しようということになった。
正直Kakis氏が正確に読めてアシェットが読めなかったのが、一番の心因だった。
ようするに、日本人には理解できる=日本語に干渉されている、ということだからだ。

そこでアスペクトを整理。
アシェットやネットの面々を巻き込んで一週間も議論した末にようやくまとまった。
17年越しでようやくアスペクトが落ち着いた。5月最終週はアスペクトで終わってしまった。

それだけアスペクトは難しい分野だといえる。
言語学の知識もいるし、内容も複雑である。

細かく表現できればいいというものでもない。
細かすぎると選択が面倒だし、語形が長くなる傾向がある。語形が長くないと今度は聞き違いに悩まされる。

ふだんは大雑把だが、その気になれば細かいというような二重構造が必要だ。
また、頻度の高い相ほど語形が短い必要がある。

さらに、どの動詞にも適応できるひとつの体系を作ったほうが手軽だ。
心理動詞と移動動詞では体系が違います、などというのは使いづらい。
体系はひとつ。しかも規則は最小限。加えて使い勝手優先。
それでも例外は出てくる。そこでどれだけ例外を押さえられるかに奔走する。

まったく、匙加減の難しい分野である。
慣用句は文化美の世界だが、アスペクトはまさに構造美を求める作業である。

思うに、アスペクトをきちんと詳細に定めている言語は少ないのではないか。
ここまで人数と時間をかけて人工言語のアスペクトを作りこむというのはそうそうないことだろう。

今回の問題に参加した人間は、アプリオリなアスペクトを作ることがいかに面倒くさく手間と頭のかかることか実感している。
その目を持って既存の伝統的な人工言語を見ると、ずいぶん荒い造りだなとか、アポステリオリだなと思うことができるだろう。
それは従来のアルカシリーズでさえ同じだ。

ところで、アポステリオリの場合は参照言語を参照していいが、それでもきちんと説明しているだろうか。
アプリオリにいたってはオリジナルの体系をきちんと説明しているだろうか。
多分、していないはずだ。

となると、その言語を使うということは、人によってI'm loving itだったりI love itだったりするカオスを食い止めるルールのない言語を使うことにほかならない。
えぇと、それでいいのかと思うのだが、かといってオリジナルのアスペクトなど、そうは簡単に作れない。
だから、このHPが少しは役に立てばいいと思っている。先人たちの屍の上を歩いてくださいw

ただ、アルカのアスペクトはアルカ用。オリジナルの体系なんていくらでもある。
新生のアスペクト考はアルカだけでなくほかの人工言語にも使えるので、読んで加工するといいかもしれない。

ふと思ったのだが、アスペクトはかなり言語の進捗度を測る道具になる気がする。
例えば、こんな質問があるとする。

・「座った」は「座面に着いた」場合も「座った」だし、「座り終えて立つ前」も「座った」といえるが、貴方の言語ではこれにどう対処する?
・「座っている」は人が座った状態を維持している場合と、人が座った後の座布団のぬくもりを指す場合があるが、これについてはどう対処する?
・「一歩歩いても歩く」だし、「駅まで歩いても歩く」と言えるが、貴方の言語ではこれらは同じアスペクトとして処理するか?
・「眠る」という動詞はあるだろうが、その完了相は「ベッドに入った段階」か「眠りに落ちた段階」か「眠り終わって目が覚める瞬間」のどれか?
・「好き」は行為動詞か状態動詞か(形容詞かもしれないけど)。もし状態なら、動詞の素の語形をそのまま使うか否か。

これらにサクサク独自のアスペクトを駆使して説明できたら、「あぁ、この言語は結構練られているんだなぁ」と思っていいと思う。
なんとなく自分の母語や英語のアスペクト体系を持ち出して説明している場合はもちろんアウト。
ここに挙げた例は日英語しか知らないと何となくスルーしてしまうものなので、結構リトマス紙になる気がする。
ちょっと意地悪だが、便利なキットかもしれない。