スラブ語と違い、日英幻は定不定の語彙レベルでの区別がない。
「歩く」には移動動詞と運動動詞がオーバーロードしている。(オーバーロードというのは魚楠氏によるネーミング)

setの単位動詞と反復動詞を見てみよう。

――○――○――○―― 単位動詞「殺す」
|○○○○|      反復動詞「殺し続ける」

setの場合、単位が基本だが、反復動詞として累積も使う。

次にlukの定動詞について見る。

――○――○――○―― 単位動詞「歩いて移動する」→よく使う
|○○○○|      反復動詞「歩いて何度も移動する」→使わない

lukの定動詞は反復で使うことがまずない。
定期便の馬車が決まった道筋を歩いて何度も往復するような場合に使う動詞だが、まず必要ない。

次にlukの不定動詞について見る。

――○――○――○―― 単位動詞「一歩歩行する」→使わない
|○○○○|      累積動詞「歩行する」→よく使う

一歩歩行する行為にも当然脚を出して地面につけて……という動作があり、その短い時間を微分して考えれば7相が立つ。
だが、まずその意味で使うことはない。

さぁ、lukの定不定を見て気付いただろうか。「使わない」と「よく使う」が逆転している。
そこで、使わないものを排除して統合するとこうなる。

――○――○――○―― 単位動詞「歩いて移動する」→よく使う
|○○○○|      累積動詞「歩行する」→よく使う

この体系にすれば、lukは定動詞と不定動詞を混ぜつつ、setと同じように2つのモデルで必要な部分だけを表せる。
これが言語によっては定不定の区別がない理由であると思われる。
定不定のある動詞は、どうやら定の場合は単位、不定の場合は累積がデフォルトになる。
従って、それらを組み合わせれば、setなどの定動詞同様、2モデルで事足りる。

事足りるので日本語では語彙レベルで区別しない。
また、事足りても気になる言語、例えばスラブ語などはきちんと区別する。

なお、このことは定不定を持つ動詞すべてに言える。
「読む」「書く」「走る」「泳ぐ」などなど。