複合語を作っていて、形態素の順序に悩むことがある。
白黒は黒白ではいけないか、パズル絵と絵パズルはどちらか適切かなど。
そこで複合語について考察した。以下は掲示板におけるセレンの発言。



そろそろ煮詰まってきたので言語学的な補足をしておきます。
「」内は言語学大辞典に基づく術語なので信用してかまいません。
いつものアルカ用語ではありません。

僕らが今問題にしているのは、複合語ABにおいて――

1:AB間に格関係が見られない「並列複合語」 ex)白黒
2:AB間に同格関係のある「同格複合語」 ex)母親

――上記2点について、どのような意味素性or特性を持った形態素が右側に来るかということです。

ちなみにアルカや日本語含め、ほとんどの言語では右側で複合語全体の性質が決定する「末尾限定複合語」を採用します。
反例はタイ語などで、少数です。よって、この問題を解決すれば他の人工言語にも広く一般に応用ができるといえます。

パズル絵の場合、「パズルとして使う絵」なので、(日本語にはありませんが)目的格が入っていると思われます。
アルカにするとleis len(lanaen) loktですね。

絵パズルの場合、「絵の性質を持ったパズル」で、絵は修飾要素として働いており、本質的には白鳥とかと同じです。
どうもこれらに関してはニュアンスが違うということで、魚楠さんの案のとおりだと思います。

で、多分そう考えるとアルカはleisloktやaavloktのほうがいいような気がしてきました。
loktleisとはニュアンスの違う単語として別に作ったほうがいいかもしれません。



以下、セレンの考察を続ける。
並列複合語は恣意性が高いが、次のように恣意でないケースもある。

1:序列。例えば男尊女卑の場合「男女」の順に並ぶ。ただし男女という順序だからといって男尊女卑になるわけではない。逆は必ずしも真ならず。
2:順序。「前後」「長幼」「大小」のように、甚だしいものや時間的・空間的に前になるものから並ぶ。
3:音調。Ladies and Gentlemenのように、句全体のアクセントやイントネーションが言いやすいリズムの順に並ぶ。
4:声調。中国語などでは並列複合語を声調順に並べることが多い。黒白(hei1bai2)のように。
5:文化。中国語で東西南北のことを東南西北という。東は青龍で春、南は朱雀で夏、西は白虎で秋、北は玄武で冬を示すため、実は春夏秋冬の順に並んでいる。

同格複合語は上位概念ほど右側に来る。
母=親であるが、論理学的には母→親と解釈される。
親→母ではないため、親母ではなく母親となる。


パズル絵と絵パズルは格関係がある。
これについては魚楠氏がブログで考察されており、引用させていただいた。掲示板にて末広氏も考察をされているので参照されたい。
恐らくアルカはloktleisのほかにleisloktも造語し、ジグソーパズルには後者を当てたほうがよいと判断される。



末尾限定複合語の場合、最後にどの語を持ってくるかということについて一般的な規則を考えてみる。

【知恵の輪とジグソーパズル】
 知恵の輪は英語で puzzle ring、アルカで loktaav (パズル+輪)といい、どちらも輪が最後に来ている。これは別に違和感はない。ジグソーパズルは英語では糸鋸+パズルで、アルカでは loktleis (パズル+絵)という。英語は鋸そのものを組み立てるわけではないのでこれが妥当。アルカも知恵の輪と同じ順番なので一見良さそうだが、こちらは違和感がある。

【成分に絵のある複合語】
 絵が前に来ていれば「絵の描いてある何か」を表すことが多い。絵はがき、絵手紙、絵日記など。これらははがきや手紙や日記の一種であり末尾限定に矛盾しない。絵が後ろに来ていると、画材、画法、画風や絵の内容を表すことが多い。油絵、線画、風景画など。loktleis に違和感があるのはこのことが原因だろう。「パズルの輪とは何か」というなぞなぞを出せば「知恵の輪」と答える人が多いと思う。同様に「パズルの絵とは何か」と問うと、輪の問題の後なら「ジグソーパズル」と答えられるかも知れないが、前置きがなければ「パズルを描いた絵」を想起する人も少なくなかろう。その証拠に「パズルブック」と聞けばクロスワードパズルや間違い探しなどの問題を集めた書籍を思い浮かべるのではないだろうか。部品を組み立てると本が出来上がるからくりを想像する人はまずいないのではなかろうか。

【輪と絵】
 知恵の輪はパズル輪で良さそうなのになぜジグソーパズルはパズル絵ではいけないのか。絵は輪よりも情報が多く、複合語の成分としての用法も慣用で制限されているので具合が悪いのではないか。「○○輪」というと「わ」ではなく「りん」と読む場合も含めて「回転する部品」程度の意味しかないが「○○絵」となると類例が多く、前半の成分によって意味も自動的に決まってしまう。絵も本も内容があるので、これらを末尾に置いた複合語は、その内容を表すものと解されることが多いように思う。

【類例とカテゴリー】
 そこで複合語を作る場合、先ずは類例を探してそれに倣うのが無難だ。都合の良い類例がなければ、その複合語を分類した場合、それぞれの成分のうち、どちらがより適切かを考えて、そちらを後ろに持ってくるとうまくいくのではないか。この場合、より具体的、限定的な方を選ぶのが良い。おもちゃ屋さんや文房具屋さんに行くと「パズル」の売り場がある。美術館には彫刻やモダンアートと並んで「絵」の展示コーナーがある。しかしホームセンターに行っても「輪」の売り場はなく、ネジやタイヤやゴムホースのコーナーに散らばっている。

【手順】
1. 類例が
 ある→ 2.
 ない→ 3.
 あると思ったがちょっと違う→ 3.
2. 類例に倣う。
3. 分類した場合
 どちらか一方の成分が適当→ 4.
 どちらの成分にも決め難い→ 5.
4. その成分を最後に持ってくる。
5. 恣意。お好きなように。

e.g.
a. ジグソーパズルを「絵」と「パズル」で表す場合。
1. 類例はある。
 「○○パズル」だとうまく表せそう。
 → 2. 「絵パズル」に決定。
 「○○絵」だとちょっと違う。→ 3.
3. 分類はおもちゃ屋さんに売っているのだからやはり「パズル」だろう。
 → 4. 「絵パズル」に決定。

b. 知恵の輪を「輪」と「パズル」で表す場合。
1. 類例はある。
 「○○輪」というのはあまり聞かないが「○○パズル」ならある。
 → 2. 「輪パズル」に決定。
3. 分類はおもちゃ屋さんに売っているのだからやはり「パズル」だろう。
 → 4. 「輪パズル」に決定。

c. 知恵の輪を「知恵」と「輪」で表す場合。
1. 類例はある。
 「○○知恵」というと「悪知恵」とか「浅知恵」とか思考を表すからちょっと違う。→ 3.
3. 分類は「知恵」は 1. で否定されたので「輪」を後ろに持ってくる。
 → 4. 「知恵輪」に決定。

 要は成分を前後入れ替えて比べてみて、1) 類例のあるもの、2) 類例に反しないもの、3) 分類の妥当なものを選ぼうということ。