『日英語の比較』村田年「コロケーションによる語の意味の分析と記述」

同書は日英語対照言語学の論文集。
その中の村田氏の論文について。
まず引用箇所をごらんいただきたい。

http://cid-dd6eff55a81cbf67.skydrive.live.com/self.aspx/arka/ratto1.jpg
http://cid-dd6eff55a81cbf67.skydrive.live.com/self.aspx/arka/ratto2.jpg

上記は自然言語の語法の調査方法として十分かつ適切なものと思われる。
ここから分かることは、「自然言語の語法の調べ方は帰納的である」ということである。
用例ありきで、そこから語法を帰納する。

一方、人工言語は逆である。
まず語法を作者が作り、それを元に用例を作っていく。すなわち演繹である。
本質的に語法作りは自然言語と真逆になる。

p60のproblemのような語法をまず作者が作る。
それを元に用例を作っていく。

語法を作る際は、その言語の文法に沿うかを考える。
また、文化に反しないかも考える。
例えば小麦を主な作物としない日本語に"piece of cake"におけるcakeの語法が存在するはずがない。
この2点に注意すべきである。

なお、ある程度語法を作っていけば、今度はそれらの語法を元に別の単語の語法が定まると思われる。
例えば「遠い」に「軸から離れている」という語義語法があるとするなら、高い確率で「近い」には「軸から離れていない」という語義語法があろう。
ある程度の段階を越えれば、自然言語の語法を研究するのと同じ手順で人工言語の語法を定めることができるだろう。

●余禄

p63に面白い記述がある。

語義が複数ある場合、転義によって新たな語義が生まれる。
その転義の過半数がメタファーによるものだと氏は言う。
残りはメトニミーとのこと。

言い換えれば、人工言語もこの比率を守ることで、
より人間に適した自然な人工言語を作ることができる。

さらに同ページで語義の記述についての言及もある。
発生順ではなくその語の中心的語義から述べるべきだと氏は述べている。
歴史的に古い用法からではなく、現用において最も中心的な語義から記述すべきという。
これは幻日辞典の語義の収録基準と同じであり、非常に実用的といえる。