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/ [経済][歴史]神人貿易
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[文化]
メルティア104万年、膠着したラヴァスを終戦させるため、神々は和平に向けて協定を結んだ。
協定の内容は攻撃の停止と、互いの領土を侵犯しないことであった。しかしこれには2点問題があった。
1つは前線付近の領土がどちらに属するかという議論で再び揉めてしまうだろうこと。
1つはラヴァスの激しい戦いで、エルトの一族の領土アンシャルも、サールの一族の領土インサールも荒廃していたことである。
これらの問題を解決するため、神々は戦禍を免れた土地を新しい領土とすることに決めた。
その候補地はいくつかあったが、元々神々が生まれたフィーリアが最終的に選ばれた。

神は神の世界アルフィを作って新領土として半分ずつ分割し、移り住むことにした。
神の造形術は剣などの小さいものを作る能力であり、世界は創世できない。
そこで彼らはフィーリアのミナカルモに行き、ミナカルモを切り取って異次元に送った。
異次元に送るという魔法も相当強力なものなので、ミナカルモを送るだけでも精一杯だった。

ミナカルモは外側から見ると霧がかった湖に見えるようになった。
その湖はミナルドゥといい、湖に入ろうとするといつの間にか反対側に抜けてしまう。

アルフィの西側をエルトが、東側をサールが占有した。
こうして神々はアトラスから去った。
神々は互いに抜け駆けを防ぐため、「アトラスの領土を侵犯しないこと」という協定を結び、原則としてアルフィから出ないことを互いに約束した。
こうしてアルフィに住み着いた神々だが、フィーリアには古レスティルほどの植生がないことに悩んだ。
つまり食べ物の種類が少なく、資源の種類も少ないのである。

そこで神々は人間界の資源に注目した。しかし協定により神々は人間界を侵略できない。
神々は人類に供物を捧げさせればよいと考えた。だが単に供物を捧げるだけでは人類側に利益がなく、従う理由がない。
もし供物を捧げないことでエルトがアルバザード人に神罰を与えれば、それはサールから見てエルトがアルバザードを侵略して資源を奪ったとしか見えず、協定違反となる。むろんこれはサールにもいえる。
人類はこの事情を知っているので、いくら神が脅したところで人類は従わない。

そう考えた神々は人類に貿易を持ちかけた。
こちらからは有事の際の神の加護という名目の軍事力とフィーリアの資源を提供する。
その代わり、人類からは資源をもらうという内容である。例えばメティオ産の香辛料や、アルバザード産の銀細工を得るなどといったものである。
アルバザード人に神罰を与えるのは侵略行為になるが、契約を結んだ相手に加護を与えるのは侵略ではないため、協定違反にならない。
知恵を捻ったユルグはこれを女王ルフェルに進言。ルフェルはこれを受け入れ、人類に話を持ちかけた。これを知ったアルデスは即座に真似しはじめる。
こうして神と人類の貿易が始まり、アルフィから出てはならないという協定に「召喚時を除き」というルールが加えられた(そのため、上で「原則として」と述べた)

貿易が始まると、貿易を担当する人間が現れた。これが召喚士の起こりである。
初期の召喚士は魔法使いというよりは、商社や通関士に近い存在であった。
神人貿易は大きな市場となり、召喚士はめきめきと頭角を現していった。

これに慌てたのが王たちである。王は召喚士の権限を弱めようと尽力するも、かえって召喚士の反発を受け、逆に滅ぼされていった。
召喚士は貿易利益によって地球のメディチ家以上の経済力を付けていった。
神は金払いがよく、各土地のサリュを通じて納品するため、輸送費もほとんどかからない。輸送にかかる旅費や人件費も大幅に節約できる。その分の利益はまるまる召喚士が得られる。
通常の貿易のように長い行路がかかると腐ってしまうものでも、神人貿易なら捌くことができる。商品のロスが少ない効率のいい貿易だった。
さらに神の加護という名目で強大な軍事力も付けたため、王位はどんどん召喚士によって奪われていった。
こうして召喚士国家が成立していった。

さて、神々は互いに反目しているため、召喚士は常にエルトにパイプを持つかサールにパイプを持つかで二分された。
エルトにパイプを持つ者はエルトのみから加護を受け、エルト召喚士となった。サールのほうはサール召喚士である。
こうして召喚士は二分された。では、複数できた召喚士国家をエルト・サールで分類すると、どのような分布になるだろうか。

もともとラヴァスにおいてエルトの領土は主にアンシャルで、本拠地はルカリア、現ヒュートにあった。
一方、サールはインサールを領土とし、本拠地はカルセール、現ヴェマにあった。
エルトはアンシャルの資源に慣れているので移住後もアンシャルの資源を欲しがった。サールはインサールの資源を欲しがった。
従って、アンシャルにはエルト召喚士国家が、インサールにはサール召喚士国家が分布し、世界を二分していた。

なお、ルティアは召喚士的にはアンシャルと同じエルト側に属し、アルバザードと親和性の高い国であった。
また、貿易はあくまで神々と親交のあったシフェルの一族とのみ行われたため、マレットの一族は貿易に参加しなかった。
マレットの資源に対する神からの需要がなかったことも理由のひとつである。
神人貿易は経済と技術の発展を促したため、このときの出来事が決定的にシフェルの優勢を導いた。

西のエルト召喚士国家は自らを上弦の月ドゥルガと呼び、東のサール召喚士国家は自らを下弦の月ヴィーネと呼んだ。
神人貿易によって国家が潤い、新しい王が出て政治が安定すると、人間の暮らしも豊かになった。
国民のGNP(このころはまだGDPではなく)が上がったことで、国民の経済力も付き、購買力がついてきた。
商品売上が増加したものの、まだこの時代は産業革命からほぼ遠いため、大量生産はできなかった。
工場の就職は売り手市場になり、人口も増加した。そして資源が足りなくなった。

そのため、限られた資源を奪い合う状況ができ、ドゥルガとヴィーネの対立が起こった。
エルトは原則としてアンシャルのものを欲しがるが、国民はインサールの米でも食べる。
また、エルトであってもインサールで取れた綿から作った服を着ることに抵抗はない。
資源の奪い合いは熾烈を極め、これが月戦争カコへと発展していく。