<ドルミーユ>

この世界にはドルミーユという魔法理論がある。
ここにはヴィードという4つのエネルギーがあり、それぞれのヴィードはさらに4つのガレットという材料からできている。
ガレットはDNAのような二重らせん構造をしており、それが寄り集まってヴィードを作る。

このうち魔力を意味するヴィードはヴィルである。
ガレットの配列はそれぞれヴィードごとに決まっているが、ヴィルのみガレットの配列パターンが多い。
この配列の違いが魔法を発動したときの効果の違いになっているため、魔法は非常に種類が豊富になっている。

<エーステ>

人間が魔法を使う際、言語を使って魔法を唱える。
呪文を唱えるときには息が出る。その息には人間の体内に閉じ込められているヴィルが含まれている。
言語を発したときはすなわち音波が発生するが、この音波が体内から出たヴィルのガレットの配列を変化させる。

従って、語形によって常にほぼ一定の配列が得られる。
配列によってヴィルの属性が火や水などの属性に変化し、ヴィルの性質が変わる。

さて、このとき例えばAという語がヴィルの性質を水に変化させるとしよう。
ではこのAの意味が「火」だとして、はたしてそれはふさわしいだろうか?むろん、否である。
「火」という概念を表す語は、少なくとも火の属性を持っているべきだと誰もが思うことだろう。

しかし概念の持つ性質は単純ではない。火100%の性質を持つ単語など、火そのものを除いて存在しないだろう。
後の世にアルシアの11魔将が分類した闇〜邪までの11属性をそれぞれ細かい割合で持ち合っているのが通例である。

例えばホウレンソウという植物は水の属性を主成分とするが、ほかに土の属性や風の属性なども持っている。
水を主成分とするのはキュウリなどもそうだが、水属性の含有率はキュウリのほうが高い。
そういう意味で、主成分が同じでも割合が異なるなどの理由で、絶対に概念Aと概念Bの属性の割合は一致しない。

つまり、概念はそれ自体が固有の属性の割合を持っていることになる。
さらに言い換えれば、概念はその固有の割合を示したガレットの配列を必ず1つ持っていることになる。
そしてガレットの配列は単語の語形によって、その音波によって作られる。

換言すれば、ある概念を指すべき語形がひとつに定まっているということである。
例えば、diltという語はホウレンソウのガレットの配列を示し、ホウレンソウを表す言葉となっている。
このように、ある概念が持っている本来的な名前のことをエーステという。
魔導師は古来よりこのエーステを喋ることにより、概念に直接働きかけ、魔法を発動していた。

なお、これはアトラスと地球の言語学を完全に分断するものである。
ドルミーユがあるアトラスでは、言語に恣意性はない。イヌはヌイと呼んでもよいわけではないということである。
厳密に言えば魔法を失ったアルディア以降は地球と同じく恣意性を持つが、それ以前の魔法が機能する時代では、あらゆる概念はそれをそう呼ぶべきガレットの配列を持っていた。