diaizm
[歴史][魔法][言語]リディア革命
20:dia/izm
[文化]
<リディア=ルティアとバベルの塔>

←leihaからの続き。

古来より魔導師たちは新たな魔法を開発するたび、苦心しながらそれの別言語版を作ってきた。
特に戦時中は敵の呪文をいかに自分の言語に翻訳した。同時に、敵性語でも唱えられるマルチリンガルな魔導師の育成に注力した。
呪文はただ決まり文句を覚えればよいだけではない。魔法AをX語→Y語に逐次翻訳してもたいてい発動しないため、発動するように文章を変えねばならないためである。

さらに、発動したとしても、より効率のよい呪文を探して研鑽を続ける必要がある。それが主な魔導師の仕事だったため、語学の習得や詩吟の能力は必須技能であった。
しかし魔導師にとって語学の学習などで時間を割かれると、肝心の魔法の練習が疎かになってしまう。そこで呪文を専門に研究する科ができた。
かといって前線の魔導師も呪文を自分で最低限は構築したり理解したりしなければならなかったため、結局は語学などに時間を割かれることとなった。

魔法の翻訳は音声面と文字面の2面から行わなければならず、複雑を極めた。
音声面ではクリアするが文字面がアウトとか、その反対とか、非常に翻訳は難しかった。
また、アルディアのころには言語が多く分派しすぎたため、魔法も各国語ごとに存在し、非常に混沌としていた。

この混乱したバベルを積みなおしたのがリディア=ルティアである。
リディアはアトラスに存在するほぼすべての魔法をひとつの言語で扱えるようにした。それがアルカである。
アルカは文字面を棄却したため、縛りが減り、自由に音声面を組み立てることができるようになった。
この結果、ほとんどの魔法をアルカに翻訳することができた。

文字面を棄却したというのは、表意文字を棄却したということであるが、厳密にいえばリディアは何一つ棄却していなかった。
文字を表す言葉はhacmaで、この文字は「幻」のような字形をしている。これを表音文字で表すと"hacma"となる。
この表音文字を以ってリディアは表意文字の代わりとした。
つまり、"hacma"という文字列が「幻」という文字の代用として働くわけである。

従って、リディアの行ったのは表音文字というフィルターを入れることで、表意文字を使わなくとも同じharmelにアクセスできるという手法である。
これを図示すると、表音文字→表意文字→harmel→leihaとなり、表音文字を左端に加えることで、25文字だけでleihaにアクセスすることを可能にした。
レガルも表音文字で現れる。

<リディアとアルカ>

リディアは表音文字を用いてアトラス中の魔法を翻訳したが、それはアルバレンではなく、アルカという言語であった。
自身で魔法の翻訳をしやすいよう、また、世界中の人々が簡単に魔法を使えるよう、アルバレンよりも文法などが簡単な人工言語を採用した。

最初にどの言語で翻訳をしようかと考えた際、リディアは多国籍団体アシェットが内部コミュニケーション用に使用していた言語「アルカ」に注目した。
当時の国際語はアルバレンだったが、世界各国の少年少女が集まっていたアシェットではピジン言語が早くから発達した。
これを指揮したのはリーザ=ルティアで、彼女は自分たち3代がかつて使っていた語彙の非常に少ない暗号を元に作成した。
リディアとリーザはアルバレンのark(繋ぐ)を元に、この言語をarkaと名付けた。

なお、リーザの暗号はさらに遡ること初代ソーンが当時のインサールの古語の花言葉を元に作った暗号を元にしている。
そこでその花言葉の暗号を初代アルカと遡及して呼び、リーザの暗号を先代アルカと呼ぶ。
リーザが指揮したアルカはピジン的で、アルバレンを基にアトラス中の言葉が集まってできたものである。

しかしその後クミールがアルシェを離脱し、4代目のソーンとしてアルシェと対立。
お互い情報を隠すためにアルシェとソーンはアルカを独自に変化させていった。
ソーンはインサール風に変えつつもあくまでインサールの言語ではなくアプリオリに変化させ、アルシェもまたアンシャル風にアプリオリで作っていった。

その後両者が和平してアシェットになると、かえってお互いの言語が通じないことで困った。
かといって国際語アルバレンも習得しづらい。
そこで両者の成員にとって習得しやすい人工言語をセレン=アルバザードが作成するよう、リーザが依頼した。

セレンはそれまで使っていたアルシェのアルカとソーンのアルカを元に、n対語などの外国人に覚えやすい工夫を盛り込み、制アルカとした。
それまでのアルカは古アルカと呼ぶようになった。
制アルカは8年ほど使われたが、慣れるにしたがってn対語などが崩壊し、難聴のエンナを最終的な原因として滅んだ。
セレンは新たに新生アルカとして制アルカを自然言語風に作ろうとしたが、そこまで自然言語風にするならアルバレンで十分だろうという結論になり、アルカは消えそうになった。

そんな折、ちょうど上記の魔法の翻訳を手がけようとしていたリディアが表音文字体系で文法の簡単な新生アルカに注目し、これを魔法の言語として再利用してはどうかと考えた。
かくしてセレンとリディアは共同で新生アルカを手がけ、リディアは魔法を翻訳した。
この時点でのアルカの話者は30人程度であり、非常に少ない暗号でしかなかった。

<セレンとアルカ>

以降、セレンはリディアが呪文を作れるよう、言語面を整え、アルバレンなどを元に人工言語を作っていった。
セレンの主な作業は初期は文法など、言語の骨子を作ることであった。

しかし文法などの骨子はすぐ作れるため、ほとんどの作業は辞書の作成であった。
当時のアルバレンの語彙はおよそ5万語で、セレンはそれに相当する5万語の語彙を作成した。
セレンはメル20年に28歳でこの作業を開始し、メル35年に作業を終えた。

その後もセレンは辞書を生涯にわたって作り続けた。

<リディア革命>

呪文にはあらゆる語彙を使うわけではないため、作業を並行していたリディアは早くもメル28年に魔法の翻訳を終え、アルバザード国王に献上。
そのあまりに膨大かつ網羅的な魔法の体系に驚いたアルバザード王は宮廷魔導師たちにアルカを学ばせる。

メル30年にはミスティア錬金術舎とアルナ大学でアルカの講義が開始され、この傾向は世界に広まっていく。
メル32年、リュウはアンシャンテの規模を拡大。アルナ中の要所にアンシャンテを設置。
アデル警報などを放送し、民間人の速やかな避難を促すための装置であった。
しかし次年度、メル33年からリディアはこれをアルカで放送させた。

メル34年、空いている時間帯にアンシャンテを使ってアシェットはニュースだけでなく教養番組と娯楽番組を放送するように。
同年、リュウはアルシアとカテージュとイルケアにアンシャンテを施設。
メル35年、リュウはルークスにアンシャンテを施設。
メル36年、リュウはルティア、ケートイア、ヒュート、メティオなど、主要国の首都にアンシャンテを施設。
メル37年、リュウは苦心してワッカとラヴァス、その他地方にアンシャンテを施設。
メル38年、リュウの指揮で各国の主要都市にアンシャンテが施設される。

放送は最初のアルナを除いて、すべて初年度は当地の言葉、次年度は当地の言葉とアルカの字幕、それ以降はアルカのみで行われた。
特に娯楽番組は人気を博し、アルカの普及を助けた。

宮廷を始めとしてアルカの地位は高まり、公的機関→大企業→下請企業→民間人という流れと、学校→子供という流れで、アルカは普及していった。
もともとアルバレンという国際語からできているため、アルカは比較的世界で理解されやすく、アルディアが終わるまでにはアルバレンに代わる国際語となった。

国際語として普及が成功したのは、テームスを倒した英雄アシェットの武力と経済力が背景にある。
また、あの時代にアンシャンテを世界中に施設する魔力と財力があったことにも起因する。
さらに、最初にリディアが行った魔法の翻訳で、王と軍部の魔導師たちを抱きかかえたところが大きい。

この魔法の翻訳からアルカの普及に至るまでの一連の流れをリディア革命という。