エスペラントとアルカ



エスペラントとアルカを学ぶことを勧めます。
とりわけ言語の作成者に強く勧めます。エスペラントとアルカは人工言語学的に対極にあるからです。
両極端を学ぶことで、あらゆる種類の人工言語に対して順応しやすくなると考えています。
作成者は勿論、学習者にとっても有益です。

エスペラントとアルカをちょっと比べてみましょう。

エスペラント:アルカ
文字:アルファベット(字上符あり)28字:幻字(独自のもの)25字
音韻:母音5・子音23:母音5・子音20

1字が1音韻に対応している点では同じです。
チャ行などの音が1文字になっている点がエスペラントでは特徴的です。

音節構造:ともに開閉両方有・子音連続有
語順:ともにSVO。但し修飾はエスペラントは前置、アルカは後置
曲用か活用:有:無
数:有:無

共通点もあれば差異もありといったところですかね。
エスペラントは西洋語に似ています。実際西洋語を基にしているので。

アルカとどちらが学びやすいかですが、エスペラントのほうが学びやすいでしょう。
先験語であるアルカより後験語であるエスペラントのほうが単語を覚えるのが簡単です。
文法も英語とほぼ同じなので、エスペラントのほうが学びやすいです。
文字に関してはアルファベットを採用しているので確実にエスペラントのほうが学びやすいです。
後験語だけあってさすがにエスペラントは学びやすいですね。

勿論、学びやすさが価値を決定するわけではありません。ではアルカが代わりに持っているものは何でしょう。
それは人工文化・風土です。その影響がモロに言語に現われています。
そのおかげで言語から架空世界の空気や匂いを感じることができます。
普及型のエスペラントはこれを政策上行わないので、エスペラントでは味わえないものが味わえます。

自然言語の焼き増しではなく、ほぼゼロから創生された言語。それがアルカの特徴です。
確かにエスペラントより学ぶのは難しいです。日本人にとって慣れないものですし。
しかし独自の文化による言語観を持っていて、その上で機能しています。

エスペラントは対照的です。既存の言語を材料に作ったものなので機能するだろうことは約束されています。
でもアルカにはそんな保障はないので、実用するまでは不安だらけでした。
でも実際使えるということが分かり、新生人工言語も機能するんだなということが分かりました。

エスペラントはアルカにとってcounterpart、対の片方です。
両者を学ぶことは作成者にとって利益になります。全く異なった経験を提供してくれるので。
そして何よりエスペラントは現在も生き続ける最大の古典ですからね。人工言語の登竜門として学んでおくべきなのでしょう。


<エスペラントの声について>

人工言語で最も文献が豊富なのはエスペラントですが、流石に声の出し方までは決めていないようです。
諸本にはエスペラントはイタリア語のような響きと書いてあります。
CDブックが一般化するまで、エスペラントの実演を聞くのはラジオなどを除いて難しかったのではないでしょうか。

小林司(2006)『4時間で覚える地球語エスペラント』白水社
これにはエスペラントの実演がCDで収録されています。便利な世の中になりました。
吹き込んでいるのは2人ですが、名前からして少なくとも片方は日系人か外国人妻のようです。

エスペラントは発声法まで指示しなかったので、CDは白人ボイスです。
イタリア語か復刻ラテン語を聞いているようです。吹込みが日本人なら日本人ボイスになると思います。

CDの発音を聞く限り、強弱アクセントです。弱い部分はシュワー化しています。
この吹き込み者は偶に清濁の区別が曖昧です。特に弱い音節だとその傾向があります。
日本人が吹き込めば、この辺りは明瞭に発音するはずです。

個々の発音の聞き取りは中々難しいです。人工言語は文法がいくら簡単とはいえ、リスニングの難しさは自然言語同様です。
したがって、普及型はリスニングしやすい言語も考慮すべきといえます。

西洋語は一般に摩擦音の摩擦が日本語などより鋭いです。CNNなどを聞いているとs音が耳につきます。
吹き込みの女性ですが、sがやはり強いです。基本的に摩擦が強く発音されています。
語頭、特に文頭は有気化しているようです。アンネの日記を聞く辺り、k音が特に有気化しています。

全体的な抑揚についてこの本は説明をしていません。なので自動的に西洋語になっています。
仮に全ての語の音がsaだけでできていたとしても、この抑揚で話されればやはり西洋語だと感じるはずです。
私らが中国語を少しも分からなくとも電車の中で音の抑揚で何となく中国語を喋ってるのが分かるのと同じです。
単音が聞こえなくても抑揚だけで何語か想像つきます。それと同じくらいこのCDは西洋語的です。

音域の広さも日本語より広く、西洋語ライクです。
アンネの日記では一部でかなり高音化しています。1オクターブは上がっています。
リズムもやはりイタリア語に近いですね。

発声は本当に西洋語ボイスです。やはりイタリア語など、南方の少し暑いところで良く使われる発声法です。
イタリア語のほか、スペイン語、ポルトガル語なども同じような声の使い方です。少なくともゲルマン系の声ではありません。
タイ語など湿った熱い地域に顕著な鼻声ほどではありませんが、上記南欧語と同じ程度には鼻声です。

吹き込みがどこの人か分かりませんが、もし非西洋人だとしたら驚嘆に値します。
エスペラントがイタリア語の響きであるということをノンネイティブでありながら実演してみせてるわけですから。

アルカは架空の惑星アトラスで使われていることになっているので独自の発声法まで指示する必要があります。
更に、実在の惑星地球で小規模で使うには、発声法も一律にする努力(あくまで努力であって実現は難しい)をしないといけません。
したがってアルカはこうして発声法の指示までしています。

ですが実際私の発声を聞く限り上手くできていません。エスペラントを話す日本人と同じです。
問題は、エスペラントはそれでも良いのですが、アルカの場合はそれでは良くないということです。
練習しているので少しは何もしない状態より日本語ボイスを離れているものの、やっぱり全体的にアジア声です。
喉音・口音が目立っています、私の発音は。人に聞かせれば、きっと白人声には聞こえないでしょう。

エスペラントは普及型なので敷居を下げるために各人の母語の発声法を無理に矯正しないほうが良いです。
母語の発声を矯正するのは難しいので、符牒型でもなければ徒労です。悪戯に言語の敷居を上げるだけです。
エスペラントとアルカは言語の種類が違うので、各々のやり方は各々の生き方に合致しています。
日本人は日本語声でエスペラントを喋るし、西洋人は西洋ボイスのままで良いと思います。

――良いと思うので、できれば今度CDブックを出すときは、和書なので是非日本人に吹き込ませてください、白水社さん。
このCD、「エスペラントは西洋語」という評価を増強します。恐らく悪い意味で。別に西洋人連れてくる必要ないじゃないですか。
タイトルが「地球語」なのですから、日本で作った本なら誇りを持って吹き込みも日本人に任せようではありませんか!

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