・エーステと語形

hydrogenにyが入っているので「あぁこれはギリシャ語だな」と分かる。
knightのkやghは読まないが、逆に読まないことでゲルマン系の語だと分かる。
高い確率でドイツ語にも似たような語形の語があると分かる。

英語の場合、歴史を反映したスペルで、それが音に必ずしも反映されない。
なので音が分かってもスペルが分からず、ひとつずつ覚える必要がある。

アルカの場合、エーステ理論があるので、単語の語形は地球より変化が遅い。
それは単に作り手のセレンがたくさんの作業を面倒がってそうしたのではないかという推論が立つが、楽になると思うなら大間違いである。
というのも、エーステ理論は作業を少しも楽にしないからである。

エーステ理論のおかげで音的発達は少ない。
しかしリムレットやカルミーユやアンクレットなど、独自の語形成が増える。

音的発達は規則性があるので、knightのkが読まないならknifeもそうだろうという類推ができる。
途中にyが入っていればギリシャ語だろうなとも分かる。

一方、リムレットやカルミーユやアンクレットはアルバザード語とルティア語などの異言語間はもちろん、同じアルバザード語内ですら規則性がない。
例えば煮るはferiaというが、これはfai(熱い)とeria(水)のアンクレットでできている。
このままfaieriaとすれば複合で、記憶も初見での理解も、そして何より言語制作も楽である。

しかしferiaとなっているのは、「煮る」という概念が本来的に持っているエーステに近づけるためである。
近づけたいのはエーステの語形や音価ではない。エーステの語形が作る晄基配列に近づけたい。

「煮る」という概念のエーステが作る音波の晄基配列は水や火の属性が強い。
だがこの晄基配列を忠実に表した配列はfaieriaとはほど遠く、gobliaのようなまったく関係のない形をしている。
しかし神だろうが人間だろうが概念すべてが恣意的に決められていると使いづらいため、使いやすいfaieriaのような意味のある形にしたい。
けれどもfaieriaという語形が作る音波は風が強かったり火が弱かったりと、gobliaの晄基配列とかなり異なる。

そこでfaieriaにできるだけ近づけつつ、gobliaの晄基配列にも近づける。
それがアンクレットである。だから地球の言語学の複合とも混成とも異なる。
複合でいければ行ってしまうし、行けなければ一部を省略したり、音素の順序を変えたり、音素を添加したりする。

enviやfaigaabeは偶然そのままで行けるので複合になっている。
しかしfaieriaはそうではない。というか、学術用語など魔法が滅んでから隆盛した語彙を除いては、むしろそうでないケースのほうが多い。
そこでできるだけgobliaに近づけるために色々変えていくとferiaになる。
この結果、原型がかなり損なわれるものも多い。feriaなどはその例だろう。
だがアルカに慣れたものなら、つまりネイティブならgobliaよりはずっと分かりやすい。
そのためのアンクレットである。

注意点は、語形を似せるのではない点である。
gobliaという語形に似せるのではない。音はどうでもいい。
音と音が組み合わさってできる、「結果的な晄基配列」に近付けばいい。
gobliaとferiaは似ていないが、晄基配列に変えるとfaieriaよりは似る。

当然faiやeriaを含む別の語には別のアンクレットが行われる。
feriaではfaiがfeに変わっているが、faip(トースト)ではfai/pofからアンクレットが行われ、faiがそのまま残っている。
アンクレットのパターンは語によってまちまちである。

従って、音的発達に比べ、アンクレットなどアルカ独特の語形成はパターン数がその語の数だけある。
法則性がないため、学習はもちろんのこと、作るほうも毎回考えねばならず、極めて大変である。
ゆえに、まったくもってエーステ理論の存在によってセレンは楽にならない。